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2012 - がん友、皿海英幸さんのエッセイコーナー

    記録達成!       皿海英幸
 「今日がマラソン大会だったよね」「いや、今日は移動日、本番は明日だよ」「違うよ。母さんに話しかけているの」「ゴメン、『マラソン』と言えば父さんのことだと思ってしまっていたよ」こんな会話を娘とまじわした後、JR高木駅へ。
 福山から大分までは指定席が取れたが、そこから宮崎までは取れなかった。「始発駅から乗ればおそらく大丈夫」と思うしかない。なにしろ大分から宮崎は特急で約三時間。大会前日は体力温存と生きたい。
 宮崎行き特急「にちりん」の始発駅は大分の手前別府だ。別府で降車し「にちりん」へ急ぐ。「なんだ、そうだったのか」「にちりん」の指定席は一車両のみ。他の三車両は自由席。指定席は満員だが、自由席は空席が目立つ。
 予定通り十五時過ぎ、宮崎駅に到着。青島太平洋マラソン三回目ともなれば駅前の様子はわかる。市内をブラ歩きし、宮崎の空気になじむ。お土産の手配もこの際行う。その後ホテルへ。昨年と同じホテルなので戸惑いはない。
 翌日十二月十一日、予定通り五時前に起床。テレビでニュース」と天気予報をチェック。最高気温は十三度、風がなければ走りやすい条件。
 朝食を済ませ、七時にホテル前から出発するシャトルバスで会場総合運動公園へ。会場はすでに多数の参加者が来場している。「よし!」私のやる気も徐々に上昇。でもピークはスタート時間に合わせたい。
 九時スタート。参加者が多いので号砲が鳴っても動けない。五分くらいたったところで徐々に走り始める。スタートラインを越えたのは七分後か。気温はまずまずだが風が冷たい。三回目なので見慣れた風景。前半は無理をしないことが大切。
 スタート前、「途中、空腹感を感じたらどうしよう」とおなかの調子が気になったが、スタート後は気にならない。むしろ快調。今年は「リレーフォーライフ実行委」に参加したこともあり、応援団が増えた。私には追い風が後押ししてくれているようで楽しく走ることができる。
 「あれ、ちょっと違うな」二十キロ当たり出足に違和感あり。少しスピードを落とす。今年見練習はしっかりやってきた。ただ、諸般の事情による時間的制約から、自宅近くの同じコースばかり走っていた。遠出して様々な地形のコースを走っておきたかったという思いはある。
  二十五キロを過ぎたあたりから時々歩きを入れて走ることにする。あくまで無理をせず楽しんで完走することが大切。時間的に昨年とそれほど違ってはいない。今後の粘り方次第だ。
 三十キロ当たり、ひざが痛くてたまらなくなる。そしてふくらはぎ周辺の筋肉がぴくぴく。つりそうな予感。たまらず歩きに切り替える。痛みはほとんどない。「やはり走りと歩きでは使う筋肉・間接の使い方が違うのだよな」改めて納得。このあたりからはコースを少し外れてストレッチをしている人、休んでいる人がいる。親近感を感じるが、私はあくまで競歩の恰好でゴールを目指す。
 「頑張ってください」「ゴールまでもう少し」この大会の特徴である高校生ボランティアが要所で声をかける。声をかけられたらファイティングポーズを取る気力はある。彼女たちの前だけでも走りすぎようかと思うが、走り始めるとひざに痛みを感じ、崩れ落ちそう。無理はしないように。
 かつてオリンピック選考のマラソン大会を体調不良で瀬古選手が欠場した時、中山選手が「はってでも出場してほしかった」と発言して話題になった。この話をなぜか思い出す。私ははってでもゴールするぞ。いや、ゴールの際はヘッドスライディングが私らしいかもしれない。
         
 コースは青島海岸トロピカルロードへ。ここは餡パン・日向夏ゼリーと趣向を凝らした給水所あり。今の私にエネルギー補給はさほど必要ないだろうが楽しみだ。気分転換となりラストで多少とも走ることができればいいのだが。
 海岸だけに風が強い、そして冷たい。念のため、長袖の上に半袖Tシャツを重ね着していて良かった。例年のように半袖Tシャツのみだと体力を消耗するだろう。
 やれやれ、やっと総合運動公園だ。気力体力を振り絞ってラストスパート。でもちょっと早かった。ゴールまで続かず、歩き始める。ゴール直前は両側に多数の応援者が並んでいる。もちろん高校生ボランティアもいて、甲高い声で精いっぱいの声援だ。でももう歩くしかない。
 膝の痛みに苦しんだが、精神的には楽しんだ大会もいよいよゴール。つんのめるようにゴールのラインを通過。ゴールシーンは全員をビデオカメラに収めDVDに編集したものを希望者に販売する。分かっているが笑顔より全力を出し切ってのゴールを優先。タイムは五時間四十分。
 昨年のタイムは四時間五十分。今回ほど長時間マラソン大会に参加し続けたことはない。まさに新記録達成だ!とかく胃の手術をした人は持久力を伴う教義には向かないと思いがちだが、六時間近くマラソンを楽しむことができた。「三度目の正直」という言葉がある。フルマラソンに三回出場して参加意図も完走。「いがなくてもフルマラソンを完走することはできる」と体を張って証明できたと思う。わがことながらすごいと思う。
 このあたりを読んで「また皿海が負け惜しみを言っている」と感じた人がいたとしたら、その人は私のことを胃がある健康な人と同じレヴェルで考えているということであり、それはそれでありがたいし、うれしく思う。
 ただ、今回の結果を受け、練習方法は考え直してみたい。もっとストレッチやスクワットに時間をかけて丁寧に取り組みたい。そして休日の走り込みは、できるだけ違ったコースを違った練習方法得走りたい。
 着替えを急いで済ますと、ケータイを手に取る。今日は「府中地域がん患者交流会」の開催日。「完走できたらすぐにケータイで報告します」と連絡して宮崎にきた。皆さん喜んで下さった。
 ところで五年生存率十%余を生き抜き、フルマラソン完走三回、こうした私の体験を障害者支援という私の仕事に何らかの形で生かすことができたらと思っている。来年はこの件についても考えてみたいし、だれか相談相手になってほしい。