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postheadericon 2011年9月スキルス胃がん 五年生きて

2012 - がん友、皿海英幸さんのエッセイコーナー

スキルス胃がん
    五年生存率十%余を生きてきて   
          皿海英幸
 「手術は成功したが、腹膜播種したスキルス胃がんの五年生存率は十%を少し超えるくらい。元気になった人の例がほとんどないので、具体的な数字は言えません」五年前主治医に告げられました。かりに同病者が百人いたとすれば、九十人近い人が五年後には亡くなっているということです。
 あなたがこのように告げられたなら、何を考えどう行動しようとするでしょう。
 「五分五分ならギャンブルだけど、これだけ低いといろいろ思ってもしょうがない」と私は感じました。そして「数字は無視しよう。元気になり、社会復帰した人の例がないのなら、自分が前例となるような生き方をしたい」と思いました。
 それではこの五年間を振り返ってみます。二〇〇六年八月二八日、胃の全摘手術を行う。九月九日、腸閉そくを直す手術。短期間に二度開腹手術を行ったので「今後何かあっても大丈夫。たいていの苦しさなら耐えられるだろう」と思い、退院することができました。
 その後の経過は順調。四年目がん専門月刊誌Gに私の生き方を載せるため、ルポライターの取材がありました。そして私の発言、思いを素直にまとめ、編集部に送られました。「これじゃあだめ、スキルス胃がん故の苦悩が感じられない」と返事が返りました。そこで一部を少しオーバーな表現にして送ったところOKがでました。そのくらい順調であり、私自身、感動的な生き方より、平凡を求めていました。「がん患者」と言っても思いはいろいろ。
 だけど、今回あえて苦しかった部分を中心に取り上げてみます。読む人にはその方が参考になるのかもしれません。
 まずは食事。胃の手術をすると、「ダンピング症状」が現れます。胃に食べた物をためておくことができず、腸にストレートに届き、消化吸収するため、食後が苦しいのです。
 食べる速度が速かったり、量がいつもより多かったりすると、吐き気を催す苦しさを感じます。だけど戻して楽になろうとしても、固形物を戻すことはできません。粘りのある液が少し出るだけ。苦しいので病院へ行き、点滴あるいは注射をしてもらっても、二時間くらい辛い思いをしないと楽にはなれません。
 そこで食事中は他人と会話をせず、自身の内面と話し合いながらゆっくり食べる、すぐお腹がすくことが分かっていても、食べたいと思った量の七~八割にしておくのが秘訣のようです。
     
 次にコミュニケーション。がん患者は治療のためのみに生きているのではありません。社会とのかかわりは大事です。そんな中で「あの人はがん患者だから」と特別視されるのは堪えます。できないこと、できない時は「手を貸してください」とお願いするので、極力今までどおりに接してください。がん患者は患者である前に人なのです。症状が安定したら人とのつながりを求めるし、つながりが薬となることもあります。
 「生存率は無視する」とはいえ、すべてを忘れることはできません。時として思いだし、不安になることがありました。術後二年目に医師と話し合い、抗がん剤治療をやめました。「検査はするが、治療はしない」という状態です。なおさら私の生き方が問われるような気がしました。
 なお、術後の抗がん剤を行うに際し、「抗がん剤に予防効果がありますか?私は疑問に思います」と質問したら、「あなたの場合、腹膜播種しているので、目に見えない、検査にかからないがんの種がおなかにたくさんいると思われます。その種をコントロールするための治療です。純粋な意味での予防とは違います」と言われました。検査にかからないがん細胞がおなかにいるのかと思うと、時としてとても不安でした。
 不安にどのように対処したらいいかと思い、「生きがい療法実践会」あるいは「びんご生と死を考える会」に参加し、しっかり学習しました。ユーモアを大切にする「笑わせ療法」には最初は戸惑いましたが、慣れてくると楽しんで取り組んでいます。
 がんに関する不安、思いはエッセイとして記すことで整理しました。エッセイは同人誌・患者会会報等で取り上げていただきました。また、メールで送っている人もいます。柳原和子さん(がん患者)は「自分の言葉で自分を表現できる人は強い。しぶとく生きている」とおっしゃいました。本当にそうであってほしいと思って記しています。
    
 おっと、忘れるところでした。この春、肺炎になり十一日間入院治療をしました。誤嚥性肺炎のようで、胃の手術の影響でしょう。「食後、二時間たってから就寝するように」と主治医に告げられました。少し早めに夕食を取り、その後の間食はご法度ですね。胃がない私はおなかがすぐすくので、ちょっと辛いかなあと思いました。でも、試行錯誤の日々。
 がんになって、五年生きて、多数の人と出会い、知りあいました。特にがん患者とは支えあって生きている人が多いなと思います。
 私のエッセイを読み、「『前例がないのなら、前例となるような生き方をしたい』という皿海と知り合いだということは、私の自慢です」・「あなたは生きているだけで価値がある」と言って下さる人がいます。「五年間生きていて良かった。もしかしてこの人と出会うために生きていたのかな」と思っています。
 今までは「術後五年間生き抜く」という目標を掲げていました。さて、今後はどうしましょうか。しばらくはぼけーとして、内面からわいてくるものがあるか確認するのも一つの考え方。
 でも、平々凡々な私の五年間ではありますが、私の体験が役立つならば、参考にしたいという人がいるのなら、可能な限りそれにこたえる方向で考えたいと思っています。