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postheadericon 2011年6月脱現状維持

2012 - がん友、皿海英幸さんのエッセイコーナー

   脱 現状維持
 娘が今日の新聞持参でお見舞いにやってきた。この病院は売店がないので、新聞はとてもありがたい。となりに大きなスーパーがあり、地下は本屋と百均店。売店をおいても儲からないだろう。
 待てよ、隣とはいえ、患者は外出許可をもらわないと買い物に行けないぞ。つまり、早く外出できるように回復しなさいということか。
 私の職場は就労支援施設。研修に行くと「居心地の良い施設ではダメ!『早く施設を出て、就労したい、自立したい』と思わせる施設運営を目指してください」と言われる。
 今日日、医療・福祉施設ともに、「居心地がよい」「いたせりつくせり」では駄目のようだ。だけど、年配の利用者・ベテラン利用者は「できるだけ長く、ここを利用したい」という希望を持っている。現場のスタッフはどこも難しい時代となっている。
       
   セリフ
 お見舞いに来た娘に聞く。「連休には東京へ行ったのだよな。何か面白いことあった?」「西原さんの『女の子物語』が良かった。舞台なのだけど機関車・うどん・腐ったトマトも人が着ぐるみを着て表現するの」「面白そうでよかったね」
 偶然だろうが「隣の本屋で買ってきて」と娘に頼んだのは鴨志田穣の「日本はしっこ自滅論」鴨ちゃんと言えば西原さんの元夫。
 鴨ちゃんは末期がんで入院中、西原さんに、「君に会えて幸せでした。ありがとう」と言った。私も妻に言えるだろうか。ちょっと照れ臭い気がする。他の女性だったらもしかしたら言えるかもしれない。でもこんなセリフが言いたくなる女性、そんなに出会うことはないだろう。

   電池切れ
 妻がお見舞いにやってきた。「仕事、忙しいのだろう。それに歯の治療中。着替えはたくさんあるし毎日来なくてもいいよ」「あなたのことが気になるし。それにスーパーで買い物もあるし。ちょこちょこよることにするよ」「じゃあ、ちょっと待って」
 バッグからデジカメを取り出し、妻の写真を取る。「なっ、これでいつでも会える。本当に忙しかったら来なくていいよ」「分かった」
 妻が帰宅後、デジカメを取り出し、妻の写真をアップにする。「えっ!」電池切れ表示が出る。やむなく電源スイッチを押して切る。そういえば退屈しのぎにと持参したウォークマンもすぐに電池切れとなった。
 人の電池切れはないだろう。私は治療して元気になるために入院した。いわばしっかり充電して退院したいと思っている。
       
  医療センターにて
 新患受付で診察手続きをする。「診察券をつくりましたので確認をお願いします」「あのう、振り仮名が『サラカイ』となっていますが、私の名前は『サラガイ』です」「失礼しました。すぐに訂正します」「珍しい名前ですみません」
 診察が終わり、薬の処方箋を持って受付へ。「センターの近くの薬局は三店ですが、どこにされますか?」「初めてなのでどこがどう違うかわからないのですが」「そうですよね」「山陽自動車道で帰るのですが」「どこも駐車場はあります」迷ったが、名前の印象で決める。
 「じゃあ、自宅の電話を教えてください」「四五・・」受付の人は筆記されている。「ごめんなさい。私は岡山市内じゃあないから市街局番が必要ですよね」「あっ!そうですよね」顔を見合わせ、微笑む二人。緊張がほぐれた。