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postheadericon 2011年6月緩和医療と心の治癒力

2012 - がん友、皿海英幸さんのエッセイコーナー

  「緩和医療と心の治癒力」より    皿海英幸
 患者にとって当たり前のことが記してある読みやすい本だなと感じた。著者黒丸尊治氏は「緩和ケアは死を前提とした医療」「末期のがん患者は遅かれ早かれ亡くなる」という考え方に違和感があると記す。「末期がんでも、良くなる可能性はゼロではない」「どんな状態であったとしてもあきらめずに今を一生懸命に生きよう」としている患者の思いも大切にし、希望を支えてあげたいと考える。
 倉敷の伊丹医師も似たようなことを言われた。「標準治療で効果が期待できない患者に『あなたにはもうすることはありません。ホスピスを紹介しましょう』という医師に憤りを感じる。標準治療以外にも治療法はある」と。
 ただ、私が講演を聞いた医師の中には次のように述べる医師がいた。
 「緩和医療は場所を指すのではない。考え方だ。一般病棟であれ、在宅であれ、痛みを訴える患者には緩和医療を行いつつ、がんの治療も行うのが大切」「告知を受け、苦しんでいる患者には心の痛みを取ることを考えるのも緩和医療」
 こうした考え方が一般的でないのが現実なのかもしれない。緩和医療は通称「マルメ」といい定額制になっている。どのような治療をしてもしなくてもひと月の診療報酬は同じ。経営の観点からすれば、積極的な治療は控えたほうがよいということになる。
        
 それはさておき、患者に寄り添う医療という点から黒丸氏は現在の緩和医療に疑問点をあげている。
 ○緩和ケアで治療的かかわりをしてはいけないのか。がんを治すための治療をしないことと、治療的かかわりをしないことは全く別のこと。
 ○代替療法にすがるのはいけないのか。西洋医学的治療ができなくなっても、まだあきらめたくない患者がいる。その人が代替療法に希望・安堵感を見出すことができるのなら、必ずしも無駄ではない。
 ○末期がんの患者さんはもう良くならないのか。末期がんが消えてしまったり、あるときから進行が止まってしまったりする(自然治癒)患者は結構いる。
 ○死から目をそむけようとしてはいけないのか。死をどう受け止めるかは十人十色。聖人君子ばかりではない。
 ○痛みを我慢してはいけないのか。我慢するには、それなりの理由がある。まずは思いに目を向け、話を聞いてあげることが大切では。
 患者さんにアドバイスしてはいけないのか。傾聴は大切だが、とらわれすぎず、双方向的コミュニケーションが大切な場合あり。
 次に黒丸氏は自身の緩和ケアで取り入れている代替療法を紹介されている。
 ・アロマセラピー(香りの精油を使って手足や体のトリートメント。 ・リフレクソロジー(足裏マッサージ) ・マッサージ ・ヒーリングタッチ(いわゆる手当、手かざし) ・レインボー療法(鍼灸師が行う自然療法) ・サイモントン療法(心のケアをするための心理療法の一つ) ・傾聴ボランティア ・フィーリングアーツ(音楽と光と絵画を融合させた幻想的芸術)
 いろいろ紹介されているが、私が関心を持ったのは「お姉ちゃん療法・イケメン療法」だ。名前に抵抗を持たれた方がいればごめんなさい。
 色々とセラピー・療法があるが、患者の心をぐいと掴んで離さないようなセラピストの存在そのものがセラピーになっているのではという考え方。男性患者にとっては、明るくやさしい女性に囲まれ、彼女らを独占できるのはパラダイス状態。あの人と一緒にいれば心が落ち着く。あの人に声をかけてもらえると前向きになれる。このようなことは確かにある。
 職場の同僚が四月、病院に転職した。彼女の職務に患者の話し相手になるというのがある。「お姉ちゃん療法」を存分に発揮できる人柄ではと期待する。そしてそのような指示をした院長は黒丸氏と似たような考え方の医師かもしれない。
代替療法にはエビデンス(科学的根拠)がないとして否定的考え方に対し、黒丸氏は記している。「科学的根拠がないからと言って代替療法の効果を否定されてしまうと、データという血も心も通っていない無機質な数字だけをよりどころに物事を判断されているような気がして、温かみのある医療とは程遠い機械的な冷たさを感じずにはいられません」
患者が望むなら、それによって希望が持て、充実した「今」を生きることができれば一概に否定することはないだろう。希望が持てればブラシーボ反応も期待できる。ただし、副作用が強いとか、悪徳商法のような高額なものは論外と記す。
「無機質な数字」という点では五年生存率もそうだろう。いつ、どういう意図で告げるのか、十分な配慮・説明がなければ患者に重くのしかかる。
医療スタッフは単に技術的なものだけでなく、患者にどう寄り添うのか、どのようにコミュニケーションを取るかが大切ということが分かりやすく記してある本だ。