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postheadericon 第五回旭寄席より(2017年6月13日)

2012 - がん友、皿海英幸さんのエッセイコーナー

    第五回旭寄席より(2017年6月13日)   皿海英幸

 「皿海さん、もうすぐ旭寄席ですよね。今回もわかばは招待券をもらえるのですか?」職員Sさんが聞いた。「そうですね、前回笑福亭鶴瓶さんが来られたので旭寄席の知名度、人気が高まったので難しいかもしれませんね」「聞くだけ聞いてみてください。今回も前回同様一緒に行けるといいですね」「わかりました」

 「旭寄席」は旭公民館で行われる落語会。中須町に鶴瓶さんと大学時代の親友が居られ、その人の発案で始まった。鶴瓶さんの弟子が落語家を手配し、一緒に来てくださるので、比較的安い木戸銭で面白い落語が楽しめる。「障害者も地域行事に参加し、みんなと一緒の笑ってください」という公民館のご厚意で招待券をいただいている。

 「今回も、落語の招待券をもらえますか。難しかったら無理をしなくてもいいけれど」公民館の主事は私の同級生であり、近所なので、問い合わせてみる。「ちょっと考えさせて」という返事だった。

 なかなか返事が来なかったので「やはり無理かな」と思いかけたころ「招待します」という返事があり、チケットをいただく。

 「もう、六月十一日の予定があります」「田植えで忙しい時期なので」「会場で居眠りをしたら申し訳ない」等々の理由でなかなか利用者から、「参加したい」という申し込みがない。「利用者さんがないのに、職員が招待券というわけにはいかないでしょう。しっかり勧誘してみましょうね」Sさんと何回か打ち合わせをする。そうだ!Kさんは「休日が退屈で寂しい」とよく言われる。Kさんを誘ってみよう。「ありがとうございます。私が行ってもいいのですね」参加者は利用者Kさん、職員Sさん、私の三人となった。頭数は前回と同じ。胸をなでおろす。

 「開場は十三時三十分なので、三十分頃着くように行きましょう」と打ち合わせ。それなのに「開場最前列に座っています。会場はクーラーがよく効いています」とSさんから十三時十分頃メールが届く。気合が入っているな。路線バスで来るKさんを車に乗せ、会場の公民館に三十分頃到着。Sさんが笑顔で出迎える。Sさんが確保した席に並んで座るが、最前列の中央、まさに特等席だ。

 開演まで時間があるので話しかける。「今日、マジで結婚記念日なのですが、何を買って帰れば妻が喜ぶでしょうか?」「それはバラの花でしょう」とKさん。「Sさんは結婚しているけれど、どう思う?」「バラの花ですよね、そんなサプライズがあったら驚き、そして感激するでしょう」「わかった、じゃあバラの花にしよう。妻が喜んだら報告します」

 そんなとりとめもない話をしていたら、定刻となり開演。まずは鶴瓶さんの弟子笑福亭恭瓶、次は米朝一門の桂よね吉、次は桂文枝一門の桂文也の三名が大いに笑わせてくださった。わたしはNHK「演芸図鑑」あるいはCDで落語に親しんでいるが、生で聞くのがやはり一番感じやすくよく笑える。

 会場は笑い声でいっぱい。笑い声がまた笑いを呼び、笑いの連鎖反応。隣のSさんも笑いどころがわかっているらしく表情を緩めて「クスクス」もっとも、「口を開け、大笑いしたかったけれど、最前列なので少し控えて笑っていた」とあとで教えてもらう。

 「あれ、ちょっと」Sさんの隣のKさんは絶えず冷静な表情で時々うつむいている。「うーん、落語を楽しめていないのかな」気になって、Kさんをチラリチラリ。でも、あまり見ていると間のSさんが「皿海さん、私をちらちら見てどうしたのかな。落語より私が気になるのかな」と思われるのもしゃく。

 後日Kさんに聞くと「なんでみんな笑っているのかよく分からなかった」うーん、生活基盤というか、生活感覚というか共有するものがないと笑いのツボもずれるのかもしれない。若くして障害を持ち、一人でしんどい思いをしながら生きてきた人に取り、ほかの人とは笑いどころが違うということかな。

 「でも、休日に一人家で過ごすより、Sさん・皿海さんと公民館の最前列に座ることができ、良かったと思います」この言葉に救われた気がする。

 障害者が地域行事に気軽に参加することは大切だけれど、誘う場合は無理をせず、しっかり配慮して声掛けをしなければと考えさせた。でもやはり、私に取り、楽しい一日だった。