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postheadericon マラソン大会の参加賞(2017年3月13日)

2012 - がん友、皿海英幸さんのエッセイコーナー

    マラソン大会の参加賞(2017年3月13日)   皿海英幸

 「うーん、達筆すぎて読めないな」三月四日、井原市で行われたマラソン大会。参加賞はカレーライスとTシャツだが、背中に記してある漢字一字が読めない。「あっ、そうだ。読めなくて幸いだよね。

 わかば利用者の中に、習字を得意としている人がいる。その人に聞けば話しかける口実となるぞ。うん、良い考えだ。

 「ねえ、達筆すぎて読めないのだけど、貴女なら読めるでしょう。お願い教えて」「立という字に風だと思うけれど、それをどう読んでどういう意味なのかは分からない」「ありがとう。崩し字だけど手がかりを得た感じだよ」電子辞書を取り出し、「立」と入れて調べるが、出てこない。総画数で調べても出てこない。

 「立と風なら『そう』と読むのかも」職員Sさん。「ありがとう」電子辞書に「そう」と入れるが出てこない。「うーん、どうしよう」「そうだ!」パソコンを立ち上げ、IMEパッドに入力。「サツ・ソウ」とでた。「でもサツでもソウでも出てこないし。いっそ『サツソウ』と入れてみようか」

「サッソウ」と入力する。「颯爽」とでたぞ。颯だけにして調べる。「人名用漢字。風の吹く音。きびきびしたようす」うん、やっとわかった。

 先ほどの利用者のところへ行く「わかったよ。風と立で風立ちぬ。松田聖子だよ」「そうか。でも皿海さん、松田聖子の歌を知っているなんてすごいね」「題名だけは知っているけれど、歌は知らないよ」「じゃあ教えてあげる」と言い「『風立ちぬ、今は~』さいごまで唄ってくれた。

 「風立ちぬ」なら、堀辰雄でもよかったのだけれど、私は堀辰雄の「風立ちぬ」を読んでいないし、利用者には松田聖子の方がわかりやすいと思った。

 Sさんにも調べたことを伝えようとしたが、不在だったので、机の上にインターネットで調べた用紙を置いておく。その後、Sさんは自分のファイル入れに入れて持ち帰った様子。さすが勉強熱心。

 参加賞一つでずいぶん楽しませていただいた。そして読んでくれた利用者・Sさんとの距離が縮まったような気がした。ありがとうTシャツ。

     腹黒比べ

 「いるかいないかわからないおとなしい子」「いい人だけどただそれだけ」と言われて育った私はコミュニケーションが苦手である。そんな私にますますコミュニケーションについて苦手意識を感じさせる出来事があった。

 「私、腹黒いところがあるのですよ。そう思って接してください」運転中、助手席の知人が言った。運転中なので表情は確認できないが、声の調子はまじめそうだった。

 「うーん、どういう意味なのだろう。何を伝えたかったのだろう」気になるが、考えてもわからない。「本当に腹黒いかどうか、お腹を見せてください」とは決して言えない。相手は女性なのでセクハラだ。

 私自身は十年前、開腹手術をした時、腹黒い部分もすべて全摘していただいたつもりでいるだけに、彼女のことも前向きにとらえたいのだけれど。真面目すぎてうつ病の経験がある私は悩み続けることは良くない。気にはなるがしばらく放っておくことにしよう。

 「あっ、そうか。これかもしれない」『心配性をなおす本 青木薫久著」を読んでいると次のような文章が飛び込む。「長所もあれば、欠点もある。それが人間なのですから、「欠点が見えるようになって初めて、その人と本当の付き合いが始まる」といえるでしょう。」

 「あなたは私と『本当の付き合いをしたい』ということが言いたかったのですね」彼女に告げる。「そうなのです、わかってもらえましたね」ちょっとおどけた感じ。もしかしたら冗談かもしれないが、面と向かって言われたら多少の照れ隠しをしたと思うことにしよう。
 ところで、最近私はエッセイ「菜の花」(菜の花は、茎が折れてもそこからまた芽を出し花を咲かせる。そんな切なさと力強さを併せ持つ花に利用者を見立てた私のエッセイ)そして「がんの告知を受けた時の気持ちを記したエッセイ」を女性利用者に配った。意識はしていなかったのだが、「皿海さんは大変な思いをされた方。一目置いて接しなくては」と告げた利用者がいた。利用者にそう思わせる状況を作った私の方こそ、結果としては彼女より腹黒いのかもしれない。