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2012 - がん友、皿海英幸さんのエッセイコーナー

    清涼剤あるいは特効薬(2016年8月18日)   皿海英幸

 「お盆にはひ孫を見せに帰るから、元気でいてね」息子が私の父のお見舞いで市民病院に行き、このように告げたのは六月だったろうか。以来エアコンを買い替えたりベビー布団を買ったり大掃除をしたり、妻と私は着々とその日を楽しみに準備を進めた。

 「えっ、八月十五~十六日に帰省するの。私は十六日出勤なのに」「へー、朝五時過ぎに京都の家を出て、こまめに休憩を取って昼過ぎに到着予定なのか」しょうがない。生まれて三カ月の乳児がいるのだから渋滞に巻き込まれないように日時の予定を立てる必要性がある。

 当日、お昼が近づくとソワソワ。「今、神辺あたり」とメールが入ると我が家の前に出る。我が家の前は駐車スペースがないので車の誘導や荷物運びが必要。「あれだな」京都ナンバーの車を見つける。無事到着。初孫由衣ちゃんは元気そうで何より。生まれた時は三千キロに少し足りなかったが、三カ月で倍以上の六千キロに。すくすくと育っているようだ。

 皆で妻手作りの昼食をいただく。最も由衣ちゃんはあとで母乳。少し休んだところで京都の一家と私で市民病院へお見舞いに。父は由衣ちゃんを見て大喜び。起き上がって由衣ちゃんを抱こうとし、誤ってナースコールを押す。看護師さん数名が来られる。「皿海さん、いいわね。今日は元気が出るね。他人の私が見ても元気が出るわ」と由衣ちゃんに注目。人見知りせず、笑顔を振りまいている。由衣ちゃんのおかげで、生きる意欲が増した父は、おそらく寿命が延びるだろう。

 次は新市の妻の実家へ。妻の父は由衣ちゃんの誕生を楽しみにしていたが、四月に病に倒れ、由衣ちゃんに直接会う機会はなかった。初盆だからこそ、由衣ちゃんとともに、みんなで仏さん参りをしたいと思った。また、義母は義父が亡くなって以来、体調を崩しているが、由衣ちゃんに会うことで元気を取り戻してくれればという思いもある。

 妻の弟夫妻や子供たちが由衣ちゃんを囲むようにして声をかけているが、義母は遠巻きにしてそれを見ている。期待していたような反応とは少し違うが、初めてのひ孫を見て、いくらかでも元気が出ればいいのだが。

 さて、時間も来たようなので、再び我が家に帰り、由衣ちゃんはお乳をもらい、休憩。今日は長旅に加え、多くの人と会ったので乳児に取ってはこんな時間も大切だろうとは思うが、私はちょっと手持ち無沙汰を感じる。

 十七時前、デイサービスから母が帰る。早速由衣ちゃんがご挨拶。母は大喜び。「由衣ちゃん、由衣ちゃん」と名前を読んだり手を握ったり。つきっきり。「抱きたいけど、私が抱いて抱き癖がついたらいけない」と言っていたが、たまらなくなったのか、しばらくすると両手で抱いて話しかける。母に取り、生きる意欲が増し、良いお盆になったのでは、

 夕食だが、妻の手作りによる料理。嫁は本来好き嫌いがないのだが、授乳中なので、卵・乳製品・小麦粉といった比較的アレルゲンになりやすいものは控えているという。ふーん、由衣ちゃんのためにありがとう。

 久しぶりに息子の家族と会ったのだし、由衣ちゃんがいる。夜が更けるのも忘れて歓談と生きたいところだが、初めての長旅それも高速道を車なので、休むことも大事。渋滞を避けるため、明日、午前中に出発したいという。私は明日出勤日。めぐりあわせが良いとは言えないが、渋滞を避け、安全に移動することが最も大切。

 翌朝、「いつものように、ありのままに」ということで私が野菜たっぷり具たくさんの味噌汁を作る。初めて我が家に泊まった嫁にいいのかなという気がする。でも、みそだけは府中みその良いものだ。ただし、私はいつものように五時半から食事なので一人。嫁と顔を合わせてではないことが残念だが、臨機応変は私の最も苦手とすること。

 今回由衣ちゃんに会えたことでたくさんの人が元気になることができた。生きる意欲が高まったであろうことは想像できる。清涼剤あるいは夏を乗り越える特効薬のように。できることなら又早く会いたいなと思いながら、出勤のため家を出る。