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2012 - がん友、皿海英幸さんのエッセイコーナー

    がんと就労(2016年5月6日)   皿海英幸

 「がん患者雇用 継続配慮を」と題する記事が、五月二日付読売新聞に掲載されていた。要旨を記す。
「がん患者の雇用継続などを盛り込んだ『がん対策基本法』改正案を、超党派の国会議員で作る議員連盟が、今国会に提出する方針を固めた。

 がん対策は、これまで医療水準の底上げに力点が置かれてきたが、治療後に社会で活躍する患者の支援なども課題になっている。

 改正案では、働く患者の三割強が依願退職や解雇になっている現状から、事業主に配慮することを求め、国や自治体には就労に必要な施策を行うように記した。」

 この記事を読んでいて、私ががんの治療をしていた当時のことを思い出したので、「がんと就労」という面から少し記してみたい。

 「『あなたは胃がんになっています。幸い他の臓器に転移はしていませんが大きな病院に行き、詳しく検査を受けたうえで治療する必要があります』と農協病院(当時)で告知されたので、岡山大学付属病院に入院することにしました」と職場の上司に告げる。

 「わかりました。同じ職種、同じ待遇で待っていますからしっかり治療を受けてきてください」と言って送り出してもらった。今から十年前と言えば、まだまだ「がんは死に至る病気」という認識の人が多かっただけにこの言葉はありがたかった。

 入院し、腹腔鏡による検査等全身を検査した結果、「腹膜播種したスキルス胃がん。現状では手術しても意味がないので抗がん剤による治療を優先しよう」ということになる。二週間程度岡大病院で抗がん剤による治療を行い、手ごたえがあるということで退院し、地元の病院に通い抗がん剤による治療を行うことに決定。
 「職場に診断書を提出するので書いて下さい」と医師におねがいする。

「がんの診断書は難しいのです。一年~二年治療が必要」と記すと『そんなに長くかかるのなら退職して治療に専念したら』と言われることが多い。かといって『二~三カ月』と記し、三か月後にまた診断書を提出することを繰り返すと「藪医者にかかっているのか。病院を変えたら」となる。そうした発言に患者は傷つき、がんが一気に進行することがあります。あなたの診断書、少し考えさせてください」と言われた。結局、「半年間の治療が必要」という内容だったかな。 

 抗がん剤による治療を始めて二カ月が過ぎる。体毛はすべて抜け落ちたが、体力的には大丈夫だし、血液検査の数値も安定している。「こんなに元気なのに、ぶらぶらしていていいのか、ボランティアでもいい、職場で働きたい。お礼奉公がしたい」と考える。医師に相談すると「週に数回程度なら何ら問題ありません」と言われる。そのころ参加したがんのシンポジウムで「患者は治療のために生きているのではなく、社会とのつながりがあってこそ『生きる』ことになると思う」という発言に出会い、意を強くする。

 診断書持参で職場に出向き、施設長に就労をお願いする。「しばらく考えさせてください」と言われる。

 数週間後連絡あり。「職場で何かあってはいけないので誓約書提出の上、週一回の勤務を認めましょう。利用者には『がんの治療中』と言わないでください。障害者が『がんをどうとらえるか』わからないので」

 そして、「急がなくてもいいのに。治ってから復帰を考えればよかったのでは」と言われた。「五年生存率十%余で治療しています。『治ってから』でなく、『治るためには今何をなすべきか』『治療効果を高めるためには何をなすべきか』という考えでお願いしました」と応える。そして、「がん」という言葉は使わないが、私が黙々と働く姿を見て、職員・利用者にがんを正しく理解してもらいたいと思った。

 その一カ月半後、岡大病院に再入院し、胃の全摘手術を受けることができた。

 こうした私の経験から、がん患者は経済面においても、治療効果を高めるためにも、働くことができる人は働き続けながら治療をすることがとても大事なことと思う。そして社会とのつながりをすべて絶つのではなく、何らかのつながりを確保しておくことが有益であると思う。そして私の申し出を聞いて下さった職場には感謝している。

 そうした観点から、今回の議員連盟による働きかけを歓迎する。ぜひ、今国会で可決してほしいと願う。