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2012 - がん友、皿海英幸さんのエッセイコーナー

    会えたらいいな(2016年2月10日)     皿海英幸

 「あっ、しまった!ミスしたぞ」ポセットから軽快なリズムの「それ行けカープ」が聞こえてくる。私のケータイ着メロだ。急いでケータイを取り出すと音を消す。いつもだと電車に乗る時はマナーモードにするはずなのに。二月七日(日)新幹線の車内での出来事。

 ケータイには妻のメールが届いている。開いてみると「帰りは高速バス神戸ライナーでしたね。広尾に迎えに行きましょうね」

「いいよ、福山からは福塩線で帰る。家でゆっくりしていたらいいよ」

「迎えに行った方が、夕食を早く食べられる。そうしましょうね。それから神戸ライナーはミドル割引(五十五歳以上)があるから切符はそれを買ってね」

「了解しました」

 私に取り、旅に出るということは非日常生活を楽しむことなのだが、妻のメールで現実に引き戻されてしまった。現実に戻ると「一人旅に出て申し訳ない。家にいて半日でも私が家事をした方が家族にとっては良かったのでは」と思わせる。いや、よそう。せっかくだから今日は楽しまなくては。

 今日の行き先は新神戸で降り、ポートアイランド市民広場。ここで開催される「神戸バレンタインラブラン」十キロの部に参加予定。この大会、神戸の看護学生に私のがん体験を話したところ、「皿海さんの生き方・考え方を支持します。ぜひ神戸の街も走ってください。楽しいマラソン大会がありますよ」と言われ、参加し始めた特別な大会、思い入れのある大会だ。

 できれば「私の体験談を聞いた看護学生に再開できたらいいな」という思いはある。おそらく五~六年前からの参加だと思うが、看護学生らしき人に声をかけられたことはない。八千人余りの参加者なので、私を見つけるヒントになればと思い、昨年は広島カープのユニホーム(ビジター用の真っ赤)で、今年は紫色のがんサバイバーTシャツで出場しているのだけれど。

 昨年十二月、看護学生への体験談終了後一人の看護学生が私のそばにやってきた。「皿海さん、申し訳ないのですが、二月には看護師の資格試験があるので、バレンタインラブランに参加することはできません」なるほどそういうことだったのか。「でも皿海さんが参加し続けてくださるのなら、次回あたりにはぜひ参加して走りたいと思います」うーん、私はこういうのに弱いのだ。

 よし、わかりました。来年も再来年も参加しましょう。そして私だとわかりやすいように、広島カープの真っ赤なユニホーム着用で走ることを誓います。

 ところでこの大会の参加賞、男性は蘭の花で女性はチョコレート。看護学生に声をかけてもらえたら、ぜひとも参加賞の交換をしたいと思っています。

 今回のラブラン、自重気味にゆっくり走り始める。「ラブラン」と称するだけに女性の参加者が多いのも特徴の一つ。タイムや順位を意識せず、楽しんで走る。「ラスト二キロ」の表示板あり。「よし、ここから本気を出そう」と思ったが、側道に入り道幅が狭くなる。無理な追い抜きは危険。やっぱり楽しんで走ろう。どうやら一時間以内で完走できたようだ。完走後は、大会スポンサーの日本ハム社の製品を使ったホットドッグとスープで昼食を楽しむ。

 看護学生にがん体験を話す途中、「私に関心を持った人はRFL広島のホームページを開いて下さい。そして『がん友のエッセイ』をクリックすると私が記した最近のエッセイが載っていますよ」といった時、皆さんメモを取っていた。H先生にこのエッセイも載せていただいたら看護学生に私の思いが伝わるのではと期待している。

 「RFLホームページを私的なことに使うのか」と感じる人がいるかと思う。だけど五年生存率十パーセント余りと宣告された男が十年目にこんな思いで神戸の街を走っていることを知るのは、看護学生にとって、決して無駄なことではないと思うのだが。