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2012 - がん友、皿海英幸さんのエッセイコーナー

   パラリンピアン講演会より
 先日、江島大祐さんの講演を聞きました。江島さんは水泳選手としてパラリンピック出場三回。アテネ大会では銀メダルを獲得。中学二年の時、水泳の練習中脳梗塞で倒れ、左半身にまひが残った。それでは江島さんの講演で印象に残った部分を私なりに記してみたい。
 自殺未遂を三回、脳こうそくの後遺症で半身まひ、こんな状態ならいっそ死んだ方がよいと思った。だけど立ち直らせてくれたのは両親であり、スイミングスクールの友達。何回も見舞いに来てくれた。
 とはいえ、不安や心配はたくさんあり、一週間悩み通した。その結果、いつまでも悩んでいてもしょうがない。人はいつか死ぬ。もしかして明日死ぬかもしれないのだから、悩むより今できることを精いっぱいしようと思うようになった。そして医者に言われたリハビリに積極的に取り組み、泳げるようになった。
 パラリンピックに出場した時のこと、当時の金メダリストにあいさつに行ったが、鼻で笑われ、相手にされなかった。私は金メダリストといえば水泳だけでなく、人間的にも素晴らしい人だと思っていたが、態度がでかいので「絶対に倒してやる」とファイトがわいた。彼が現役中はずっとライバル視していた。
       
 講演を聞いていて、「似ているな」と思った。私ごとだが、スキルス胃がんになり、主治医に「手術が成功しても五年生存率は十%余。元気になった人はいないと言ってもいい」と言われ、しばらく悩んだ。そして、「いつまでも悩んでいても仕方ない。しばらく悩みは置いておき、今できることを考えてみよう。前例がなければ、自分が前例となるような生き方をしよう」と考えた。そして手術は成功した。
 退院後「生きがい療法」を学習する。「生きがい療法五つの指針」の4に「不安・恐怖はそのままに、今できる最善を尽くす」というのがある。江島さんや私の考え方にとても似ている。今現在を精いっぱい生きることで、死の恐怖は薄らいでいく。もしくは共存しやすくなる。死について本気で考えたものはこうした考え方に導かれていくのか。もしくはこうした考え方に至ったものが生き延びるのか。
 また、指針の2には「今日一日の生きる目標に打ち込む」というのがある。日々の生きる目標、あるいは生きがいを継続することで困難に打ち勝つための生きる意欲を大きくする。
 江島さんには当時の金メダリストを「絶対に倒してやる」という目標があり、厳しいトレーニングを自らに果たした。金メダリストが現役中は、倒すことができなかったが、彼の引退後、タイムの上では上回ることができた。
 このように日々の目標・よきライバルの存在は生きる意欲・生命力を大きくする。はっきりとした目標があるからこそ、パラリンピックに複数回出場できたのであり、次のパラリンピック出場を目指して今もトレーニングに励むことができるのだと思った。
 ところで、「夜と霧」の作者ヴィクトール・フランクルは人間の「三つの価値」について述べている。「創造価値」「体験価値」「態度価値」だ。「態度価値」とは人はたとえすべてを奪われたとしても、その現実に対してどんな態度を取るか、という選択肢は残されている。能力・業績等より、困難に対してどう向き合ったかということに人としての価値が現れるという考え方。
 江島さんの態度価値は素晴らしいものがある。だから彼がパラリンピックに出場することは、多くの人に勇気や感動を与えることになるのではと思う。
 良い講演だった。そして江島さんの次回パラリンピック出場に期待する。
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