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2012 - がん友、皿海英幸さんのエッセイコーナー

   一日遅れのプレゼント
 「倍返しよ。お願いね」と言いながらチョコを渡されたらどうしよう。流行語大賞だから可能性大だ。ドラマの中では「百倍返し」という言葉も使われたという。バレンタインデイを前にして心配したが、杞憂だった。今年いただいたチョコは一つだけ。それも「女子職員一同」と記したもの。安心すればいいのだろうが何か物足りなさを感じる。何故かな。
 「遅れてごめんね。はい」と言い妻がチョコを渡す。そうか、物足りなさの原因はこれだった。私たちは結婚して三十年余。お互いの気心は分かっている。例えば弁当。子どもあるいは妻も弁当なら苦にならないだろうが、私だけに毎朝作っている。胃を全摘し総入れ歯なので、何を入れるか等色々気苦労もあると思う。
そうした日常を評価してはいるが、記念日には何らかの意思表示があればそれもまたうれしい。
 「父さんの分も作ったけど、母さんにもらった?」娘が聞いた。「いや、まだだけど」娘は十五日に会合があった。そこで「お世話になっている人たちに」と手作りでチョコムースを作ったが、私の分の用意してくれた。「じゃあ、あす食べるよ」
 十五日の晩、妻は職場の食事会で外食。夕食を準備して外出のつもりだったが、「じゃあ私たちも」ということで娘と私は市内某ラーメン屋へ。私は手術以来ほとんど外食をしないが、最近外出がおっくうになりがちな娘が誘うので応じることに。
 店に着き、テーブルに着席。「行きも帰りも今日はタクシー、何言っているかわかる?お酒を注文してもいいのよ」と娘。そこで私は焼酎のお湯割り、娘は水割りを注文。「乾杯!」何に乾杯なのだろう。一日遅れのバレンタインデイということにしておこう。
 つまみはタルタルソースで食べるカキフライとおでんの盛り合わせ。おでんは薄い色の汁。「父さん、若いころは九州出張が多かったけど、あっちはとても濃い色のおでんだった」「おでんと言っても地域によって色々よね。今日は半分ずつにして、どれも食べようね」「分かった。でもこんにゃくは全部やるよ。胃がないから」食事メニューについて詳しく記すのは、最近村上春樹の羊に関するシリーズを読んだ影響か。ホテルで酒を飲んでいるシーンがたくさん出てくる。
 一杯飲んだ後ラーメンを注文。「ラー油もにんにくのすりおろしもテーブルにあるからトッピングはしなくていい」「そうそう」他にも、高菜や紅ショウガがテーブルにある店は珍しくない。D店だとねぎかけ放題,T店はゆで卵がテーブルにあった気がする。
     
 普段は一人黙々と食事をする私。他人と話をするより、自分の内面の様子を感じながら食べないと、ダンピング症状で苦しくなるおそれあり。それにしては今日娘とよく話をした。楽しくお酒を飲むと症状も遠慮するのか。
 「今日はたった一杯なのに酔ったみたい。しばらく飲まなかったからかな」タクシー内で話しかける娘。「安く酔えるのはいいことだ」と私。どの程度で酔うかは体調にもよる。それより私も娘もラーメンにニンニクをたっぷり加えて食べた。ずいぶん口が臭いことだろう。ところが妻はニンニクのにおいが大嫌い。「ニンニク臭さが部屋に充満して、よく寝られなかった」という可能性あり。
 でも、娘と私が二人で外食をするのは久しぶり。妻にはそのことを喜んでもらいたい。一日遅れとはいえ、今年も楽しいバレンタインデイを過ごすことができた。さて、ホワイトデイはどうしようか。百倍返しとまでは行かなくても、二~三倍は返すことを検討してみようかな。ホワイトシチューに白ワインというのもありかな。