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2012 - がん友、皿海英幸さんのエッセイコーナー

    そんな理由で決めますか   皿海英幸
 「皿海さん、今度の研修に行って下さい」「え~、六十歳を過ぎている私が受講ですか。辞退したい気分です」「そう言わずに。もう申し込みましたから」
 「相談支援従事者現任研修」が一月二一日~二三日広島市安芸区民文化センターで行われる。受講料、交通費、宿泊代等経費が高額となる。私が管理者なら定年間近の職員に使うよりは若い職員にと考える。期待されているということなのか。ならば研修を受けると定年まで勤めなければ申し訳ないという気にさせられるが、私は常にフリーハンドを確保しておきたい。「今回受講しないと資格がなくなります。ぜひ受講してください」管理者に言われれば受け入れざるを得ない。
 当日、朝一番の高速バスに乗り、会場へ向かう。時間的には余裕を持って到着したが、空いている席は最前列。聴力・視力ともに衰えている私には良い席と思い、最前列中央部に着席。「講師の目の前で居眠りはできないぞ」と自らプレッシャーをかける。
 一日目は百四十人の受講生が全体で講義を受講。二コマ目に難病とその支援について丁寧で体系的な話があった。希少難病者の全国組織「あせび会」の会員である私にとって、意義ある時間だった。六コマ目は障害者の権利擁護がテーマ。「施設職員は利用者に対しては権力者であるという自覚が必要」という話が印象的だった。
 二・三日目は七~八人グループに分かれての研修。「自分のストレングス(強み・長所)を意識して自己紹介をしてください」とリーダー。そこで「私はどんなに緊張しても、気を使っても決して胃が痛くなりません。なぜならスキルス胃がんで胃を全摘しているからです」と始める。「フフフ」笑いが取れた。「だけど胃のない私が年に一回フルマラソンを完走しています」「へえー」驚きと称賛の声か。自己紹介は成功でしっかり印象付けた。だけど「目立たないように」と机の引き出しをひっくり返して地味な服装を探した苦労はなんだったのだろう。
 グループ演習は「ケアマネジメントの実際」 各自持ち寄った事例の中から一つを選び、その支援の在り方を多角的に検討する。私たちは身体障害者手帳を持つ中学生について取り上げた。身体障害者にかかわっている施設の職員は事例提供した一人だけ。私も含め他の受講生は身体障害に関する制度や支援の在り方について知らない点もあり、戸惑う時もあったが支援計画を作成。「何がわからないかがわかることは大切なこと」という講師の言葉に助けられた感あり。
 三日目にはグループごとに研修で作成した支援計画を発表する時間があった。私たちのグループを代表してだれが発表するか話し合いになった。リーダーが私を見つめて言った。「大勢の前で発表すると緊張すると思います。だけど緊張しても決して胃が痛くならない皿海さんにお願いしたらどうでしょうか」皆が拍手。えー、こんなかたちで自己紹介が返ってくるの。
 「自分はがん体験なら大勢の前で発表した経験がある。最初さえうまくいけば落ち着いてきちんと発表できるはず」と自分に言い聞かせる。スクリーン横でマイクを握り、メモを見ながら発表する。思っていたことは言えたかな。
 発表が終わるとグループの皆が笑顔、そして指でOKサインを示して迎えてくれた。府中市から来ている他の施設職員からも声をかけられる。「皿海さん、ポイントを押さえたよい発表でした。落ちついていたけど場慣れしているのですね」「いえ、そんなことはありません」と言い、私が発表者となったいきさつを耳打ちすると大笑い。「笑ってごめんなさい。でもいいグループですね。フフフ」
 発表が終わったことで皆緊張がほぐれたのか、休憩時間になると私にがん体験、マラソンについて質問する人がいる。できるだけ丁寧に答える。「楽しく有意義な研修でした。五年後にまた会いましょう」という人がいたが、私は定年。苦笑い。
 「進行したがん」となればマイナスイメージでとらえ、深刻に考える人がいるが、自分のストレングスと思い、人前で話すことができるサバイバーがいることを知ってもらい、良い研修だった。ただ、いつも現場で走りまわるように作業をしている私にとり、三日間続けてのデスクワークはちょっと疲れたな。帰ったら早速ジョグがしたい。